― 2026年法改正前に知っておくべき“設計の入口” ―
2016年の熊本地震では、許容応力度計算を行っていた新築木造住宅が実際に崩壊しました。
「構造計算をしていれば安心」という常識は、必ずしも正しくありません。
では何が足りなかったのか。
答えはシンプルです。結果の数値ではなく、“どんな前提で計算を始めたか”という設計の入口です。
熊本地震後の調査で分かったのは、多くの倒壊住宅が「計算ミス」や「手抜き」で壊れたわけではない、という事実で
す。
壁量は基準を満たし、許容応力度計算も成立。法的には問題のない建物でした。
それでも壊れた。
理由は、力の流れが素直でない計画だったこと。
計算は通っても、建物として“無理をしている構造”が、実地震で想定外の壊れ方をしたのです。
建物の荷重は、柱を通って基礎へ、地盤へと真っ直ぐ流れるのが理想です。
これが「直下率」が取れている状態。
ところが、大きな吹き抜けや広いLDKで柱の直下が切れていると、荷重は梁が肩代わりします。
梁は柱より変形しやすい。荷重が集中すれば、たわみが先に起きる。
計算上は梁を太くすれば成立します。
しかし実地震では、変形が先に進行し、その変形が破壊の引き金になります。
熊本地震で起きたのは、この「変形先行型」の破壊でした。
平面計画が左右非対称だと、地震時に建物はねじれるように揺れます。
これが偏心。
偏心率が大きい建物は、壁量が足りていても、一部に力が集中します。
結果として、想定外の部位から損傷が始まる。
許容応力度計算は有効です。
しかし、偏心や直下の評価を入口で見ていない計画では、数値だけ整っても危うい。
設計の現場では、数値がNGなら部材を強くします。
梁を太くする。金物を増やす。壁を追加する。
すると、計算上は「OK」になる。
ですが建物は、数字で立っているわけではない。
変形の連鎖、接合部の挙動、施工誤差。
実地震は、計算書の想定を超える“連続現象”です。
熊本地震が示したのは、
強い部材=壊れない家ではないという事実でした。
2026年4月、4号特例の縮小が完全施行されます。
構造図面を扱う設計者は増え、許容応力度計算も一般化します。
一見すると安全性は上がる。
しかし同時に、
・計算ソフトに依存する設計
・経験よりもスピード優先の設計
・「通ればOK」という判断
が広がる可能性もあります。
資格の問題ではありません。
問われるのは経験値と入口設計の視点です。
構造計算で重要なのは、
・偏心率はどうか
・直下率は確保されているか
・吹き抜け下の荷重経路は説明できるか
・変形をどう抑えているか
という入口の評価です。
結果の数値ではない。
「なぜこの柱がここにあるのか」
「なぜこの梁で持たせているのか」
そこまで説明できる設計かどうか。
熊本地震で崩壊したのは、違法建築ではありませんでした。
合法で、計算済みの新築住宅でした。
壊れた理由は一つ。
見るべきものを見ないまま、計算をしてしまった。
2026年以降、構造計算はさらに一般化します。
だからこそ、施主も設計者も問われます。
「計算しているか」ではなく、
「どんな前提で計算しているか」を。
耐震は数値の問題ではありません。
設計の入口の問題です。