構造計算でも家は壊れる?2016年熊本地震の教訓と2026年建築基準法改正の盲点

2026年01月22日 13:57

【第1章】構造計算していれば安心、という思い込み




家づくりを考え始めた人の多くは、「構造計算をしている家なら安心だろう」と考えます。実際、設計者や住宅会社から

もそう説明されることがほとんどです。構造計算という言葉には、それだけ強い安心感があります。



しかし、その常識が大きく揺らいだ出来事がありました。2016年の熊本地震です。この地震では、新築で、しかも構造計

算を行っていた木造住宅が、現実に崩壊しました。古い家でも、違法な建物でもありません。当時の基準に適合し、計算

書も揃っていた家です。



「構造計算をしている=安全」という考え方が、必ずしも成り立たない。その事実を、熊本地震は突きつけました。




【第2章】熊本地震で起きた事実――新築で、計算済みの家が崩壊した




熊本地震後の調査で明らかになったのは、倒壊した住宅の多くが「計算ミス」や「手抜き工事」で壊れたわけではない、

という点です。許容応力度計算は成立し、壁量も基準を満たしていました。法的には問題のない建物でした。



それでも壊れた理由は明確です。建物がどのように壊れるか、そのプロセスまでを想定した構造になっていなかった。数

値としては合格でも、力の流れとして無理をしていた構造だったのです。



これは極めて重要なポイントです。構造計算を「していたかどうか」ではなく、「何を前提に計算していたか」が、結果

を分けました。




【第3章】計算は合っていた、それでもダメだった理由




構造計算、とくに許容応力度計算は、本来とても有効な手法です。ただし、それには前提があります。力の流れが素直で

あることです。



ところが、実際の住宅設計では、間取りやデザインを優先するあまり、力の流れが途中で途切れてしまう計画が少なくあ

りません。計算は成立していても、構造としては無理をしている。その状態で地震を受けると、想定していない壊れ方を

します。



熊本地震で崩壊した新築住宅は、「弱い家」だったわけではありません。「壊れ方を想像していない家」だったのです。




【第4章】大きな吹き抜けと「直下率」を無視した設計の代償




最近の住宅では、大きな吹き抜けや広い空間が好まれます。問題は、その吹き抜けの下に柱がない場合です。本来、建物

の重さは柱を通って基礎、そして地盤へと真っ直ぐ流れていくのが理想です。これが「直下率」が取れている状態です。



しかし直下率を無視した構造では、その流れが途中で断ち切られます。すると、本来柱が受けるはずの荷重を、梁が肩代

わりすることになります。梁は柱よりも変形しやすい部材です。荷重が集中すれば、たわみが生じ、歪が発生します。



歪が生じると、力は設計時に想定していない方向へ逃げ始めます。梁を太くすれば計算上は成立します。しかし実際の地

震では、先に変形が起き、その変形が破壊の引き金になります。熊本地震で起きたのは、まさにこの現象でした。




【第5章】許容応力度計算だけでOKが出る設計の落とし穴




許容応力度計算そのものが悪いわけではありません。問題は、それだけで設計を完結させてしまうことです。吹き抜けが

大きく、直下率が悪く、梁に荷重が集中している構造でも、部材を強くすれば数値は整います。計算上は「問題なし」に

なります。



しかし、建物は数字で立っているわけではありません。変形が先に起きれば、計算上の強さは意味を失います。壊れなか

ったとしても、床が傾き、建具が狂い、住み続けるのが難しくなる家になります。これは現場で実際に起きてきた現象で

す。




【第6章】「構造計算ソフト」の違いが、家の寿命を分ける




ここが、この記事の核心です。構造計算の結果は、計算を始める前の前提条件でほぼ決まります。私は構造計算を行う

際、初期設定の段階で必ず偏心率と直下率を評価に含めます。最初からそこを見なければ、どこが無理をしている建物な

のかが分からないからです。



幸い、私が使っている積算・構造ソフトは、許容応力度計算の段階でも偏心率や直下率を同時に計算し、NGであれば即座

に検索・検知できるようになっています。しかし、偏心率や直下率を初期段階で評価できない、あるいは評価しない前提

のソフトも存在します。



その場合、許容応力度計算だけが淡々と進み、部材を太くすれば「OK」が簡単に出てしまいます。設計者に悪意はなくて

も、重要な部分に目が向かないまま、合法な建物が完成してしまう。これが、いま静かに進んでいる危険です。




【第7章】2026年4月、法改正(4号特例縮小)で見落とされる「経験」




2026年4月、改正建築基準法が完全施行され、旧4号特例の経過措置が終了します。設計可能範囲が広がり、より多くの建

築士が構造図面を扱うことになります。ここで問われるのは、資格の優劣ではなく「経験」です。



梁のたわみを実際に見たことがあるか。直下が切れた建物の揺れ方を体感したことがあるか。こうした経験は、教科書や

ソフトの計算結果だけでは学べません。



急に枠を広げられた設計者や、売るだけが目的のメーカーが、重要なポイントに目を向ける余裕がないまま「計算が通っ

たからOK」と判断すると、熊本地震と同じ構図が、合法のまま再現されます。




【第8章】結論:構造計算で見るべきは「結果」ではなく「入口」




熊本地震は過去の事故ではありません。構造計算をしていても壊れる家が現実に存在する、という事実を示しました。

2026年以降、構造計算はさらに一般的になりますが、同時に「計算しているのに危ない家」も見えにくくなります。



最後に伝えたいことは一つだけです。構造計算で本当に見るべきなのは、結果の数字ではなく、どんな前提で計算を始め

ているかという「設計の入口」です。吹き抜けの下に柱がない理由を、梁の変形まで含めて説明できるか。偏心や直下の

弱さを、設計でどう解決しているか。



熊本地震で崩壊した新築住宅は、「見るべきものを見ないまま、構造計算をしてしまった家」でした。同じことを繰り返

すかどうかは、設計の入口次第です。




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