【一級建築士が検証】 積水ハウス土台レス工法の構造

2026年01月20日 21:45
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1. 建築技術の転換点「土台レス工法」とは




日本の木造・軽量鉄骨住宅において、基礎と柱の間に設置される「土台」は、構造の要として欠かせない存在でした。

しかし、大手ハウスメーカーである積水ハウスが推進する「基礎ダイレクトジョイント工法」は、この土台を排除し、

基礎と柱を直接結合させる手法をとっています。


一級建築士の視点から、この工法が建築業界にもたらした変化と、実務上の懸念点について専門的に解説します。




2. 土台が担っていた「構造的クッション」の喪失




伝統的な建築において、土台は単なる「柱の受け皿」ではありませんでした。


 不陸調整機能: コンクリート基礎のわずかな誤差を、木材の切削やパッキンで吸収し、建物全体の水平精度を確保する。

応力分散: 柱から伝わる集中荷重を、土台が受けることで基礎全体へ「線荷重」として分散させる。

振動減衰: 異素材(コンクリートと鉄/木)の間に介在することで、地震動の伝達をわずかに緩和する「遊び」を生む。



土台レス工法では、これらの「曖昧だが重要な役割」が、数値化しやすい「固定力」へと置き換わっています。




3. 構造設計上の3つの課題




この工法を評価する際、設計者が留意すべきリスクが3点あります。



① 集中荷重による基礎への負担

土台を介さない直結方式では、柱の直下に荷重が集中(点荷重)します。基礎設計において高い圧縮強度と、

施工時の品質管理(ジャンカの排除等)が極めて重要となり、現場の施工精度への依存度が従来よりも格段に高まります。



② 地震エネルギーの伝達特性

ボルトによる強固な直接結合は、引き抜きに対しては非常に有効ですが、地震時の衝撃が建物骨組みに減衰なく伝わりま

す。これは「剛」の思想に近い設計であり、しなやかさを重視する日本の伝統的な耐震思想とは対極に位置します。



③ 不同沈下発生時のリカバリー

万が一、地盤の不同沈下が発生し建物に傾きが生じた場合、土台がない構造ではジャッキアップによるレベル調整が極め

て困難になります。基礎と骨組みが一体化しすぎているがゆえの「メンテナンスの柔軟性の欠如」は無視できないリスク

です。




4. 「革新」か、それとも「製造工程の合理化」か




この工法が普及した最大の要因は、住む人のメリット以上に「メーカー側の生産効率向上」にあります。



・工場生産された部材を現場で組み立てるだけの「完全工業化」の追求。

・熟練の大工技能を必要とする「調整工程」の排除。

・部材点数削減によるトータルコストの管理。



これらは工業製品としての完成度を高める一方で、現場ごとの条件に合わせた「建築としての柔軟性」を失わせる結果と

なっています。




5. まとめ:選択にあたっての視点




基礎ダイレクトジョイント工法は、決して万能な「完璧な工法」ではありません。シロアリ対策や工期短縮というメリット

がある一方で、構造的な余裕(遊び)や、将来的な修正の難しさというトレードオフが存在します。


最新のカタログスペックだけでなく、その工法が「何を捨てて、何を得たのか」を理解することが、真に強い住まいを実

現するための第一歩です。




この記事を書いた著者:

大工のおっちゃん工房

(一級建築士/現場40年・構造設計・施工経験)

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