筋交いだけでは家は強くならない|壁倍率と面材・断熱材の使い分け教科書

2025年12月07日 09:44



家づくりやリフォームの場面で「筋交いが強い家です」「壁倍率が高いから安心です」

といった説明を聞くことがあります。

しかし、それらの言葉だけで本当の強さは判断できません。

この記事では、筋交い・合板・耐火面材・断熱材の正しい使い分けを、

初めての方でも理解できるように丁寧に解説します。


筋交いと壁倍率の基礎から、構造用合板・ハイパーEX・耐火面材の特徴、断熱材との相性までを丁寧に解説。

家づくりやリフォームで施工店と話をする際に“何度でも読み返せる教科書”として活用できる記事です。



■1章 「家の強さ」は、まずここから始まる




家づくりの相談を受けていると、

「筋交いが入っているから強い家ですよ」

「壁倍率が高いので安心です」

といった説明を耳にします。



しかし、最初の前提として知っておいていただきたいことは一つです。


家の強さは“柱や筋交いだけ”では決まらない。


揺れに耐えるためには、

「線(柱・筋交い)」と「面(合板・面材)」をどう組み合わせるか。

ここを理解しない限り、家の本当の性能はつかめません。




■2章 筋交いとは何か ― 最も基本の“斜めのつっかえ棒”




筋交い(すじかい)は、壁の中に入れる 斜めの補強材。

箱を横から押したとき、斜めに棒を入れると揺れが止まる。

このシンプルなイメージがすべてです。



ただし筋交いには弱点があります。

   ・力が一点に集中する

   ・変形が始まると性能が落ちやすい

   ・壁全体を固める力は弱い

   ・木材であるため火に弱い



つまり筋交いは大切だが “家の強さの主役”ではない のです。




■3章 では、家の強さをどう測るのか ― 壁倍率という物差し




筋交い・構造用合板・耐火面材など、

どの材料がどれだけ耐震性を持つかを数字化したもの。

それが 壁倍率(かべばいりつ) です。




●理解のステップ

   ・基準点は「昔からある筋交い」=壁倍率1.0

   ・それより強ければ「2.0」「2.5」「3.0」「4.0」…と数字が上がる

   ・壁倍率が高いほど「横揺れに耐える力」が強い



●重要


壁倍率は “材料の等級” ではありません。

家づくりの設計そのものを左右する『強さの単位』です。




■4章 なぜ現代は「壁に強度」を求める時代になったのか




理由は明確です。



●耐震等級という“必ず守るべき基準”が生まれたから


耐震等級とは、地震に対して住宅がどれだけ持ちこたえるかを示す国の基準。

等級が上がるほど強く、

適切な「強い壁の配置」が求められます。



つまり、

筋交いだけでは耐震等級を満たせない。

だから面材と壁倍率が必要になった。



これが現代住宅の大前提です。




■5章 面材が必要となった理由 ― “面で受ける強さ”




面材(合板や耐火ボード)は、壁全体で地震力を分散します。


   ・力が広い範囲に流れる

   ・壁が一体化し、ねじれに強くなる

   ・筋交いより変形しにくい

   ・耐久性が高い



つまり、

家の揺れに対して“踏ん張る力”の主役は面材です。




■6章 代表的な面材と壁倍率の違い




ここで、実務でも使われる3種類を比べます。



○① ハイベストウッド(壁倍率4.0)

   ・面材の中でも最強クラス

   ・耐震等級3を取りやすい

   ・外周部の強い壁に向いている

   ・価格は高め



○② カラマツ構造用合板(壁倍率3.0)

   ・標準で使いやすいバランス型

   ・室内側の耐力壁として有効

   ・加工しやすくリフォームにも適する



○③ ハイパーEX(壁倍率2.5)

   ・耐火面材であり、外壁下地として強い

   ・構造+防火の両立ができる

   ・外壁リフォームでもよく使う




■7章 「すべて4.0でいいのでは?」の答え




家づくり初心者が必ず抱く疑問です。

しかし結論はひとつ。



家中すべてを4.0にする必要はありません。


理由は3つあります。



  ・壁倍率は“配置”が重要

   どこに強い壁を置くかで家の耐震性が決まる。


  ・強すぎる壁は家を“固めすぎて”別の弱点を生むことがある


  ・コストが跳ね上がり、性能バランスが崩れる



つまり、

外周部は4.0、内部は3.0、部分的に2.5の耐火面材

という“使い分け”が本当の正解となります。




■8章 断熱材の話 ― 合板やEXと組み合わせる理由




構造用合板そのものは密度が高く、断熱性能が低い。

一方、断熱材は「空気を閉じ込める量」で性能が決まります。



だから、

合板単体・耐火面材単体では断熱として不足する。




では何を組み合わせるべきか。



●外壁側(防火+耐震)

 ハイパーEX(2.5)
    +
 高性能グラスウール or ロックウール
 → 外壁の防火性能を確保しつつ断熱性も十分。



●内壁側(施工性+耐震)

 構造用合板(3.0)
    +
 発泡系断熱材(スタイロフォームなど)

→ 加工しやすくリフォームにも向く。



●高強度が必要な外周部

 ハイベストウッド(4.0)
     +
 ロックウール

→ 等級3狙いの新築に最適。

■9章 「どこにどれを使うか」の実践的な指針




●外周部


   ・最重要耐力壁

   ・壁倍率4.0(ハイベストウッド)

   ・耐火を考慮するならハイパーEX2.5も併用



●内部の補強壁


   ・壁倍率3.0(構造用合板)

   ・リフォームで最も使いやすい



●水回り・火気設備周辺


   ・耐火性の高いハイパーEX

   ・湿気に強い断熱材を併用




■10章 ここで一息 ― “お風呂の温度”で考える断熱の差




断熱の違いを数値で説明しても分かりにくいため、

ここでは身近なたとえをひとつ。



●断熱性の高い家


お風呂を 42℃ にして、

一時間後に 40℃ が残っているイメージ。



●断熱性の低い家


同じ 42℃ を入れても、

一時間後には 34〜35℃まで下がってしまう。



つまり、

“家の断熱性能の差” は、お風呂の温度の落ち方と同じ。

壁材と断熱材の組み合わせが正しくないと、室温はすぐ冷えるのです。




■11章 この記事を“教科書”として使ってほしい




家づくりやリフォームの場面では、

専門家と一般の施主とのあいだに知識の差が大きく存在します。



だからこそ、迷ったときには必ず思い出してください。


筋交いとは何か。

面材の働きとは何か。

どこにどの壁倍率を配置すべきか。

断熱材は何と組み合わせるべきか。



これらはすべて、

あなたの生活と安心を守るための“基礎体力”です。



施工店と話すとき、

家の計画で悩んだとき、

自分の判断が正しいか不安になったとき——



どうかこの記事を開いて、

ゆっくり読み返してください。



必ず役に立ちます。

そして読むたびに、あなたはひとつ強くなります。




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