中古住宅のリノベーションを進めるとき、
最初の大きな壁になるのが「解体」です。
専門業者に頼む方が安心ですが、
「できる部分だけ自分でやりたい」
「解体の流れを知っておきたい」
という方も多いでしょう。
私は40年以上、現場で木造住宅の解体に携わり、
30坪程度であれば1人で5日ほどで内装から屋根まで解体する
という作業を繰り返してきました。
この記事では、力任せではなく“段取りと安全”で進める
木造解体の本質をわかりやすくまとめています。
DIYとして真似できる部分、
決して触れてはいけない危険ポイントを
明確に分けてお伝えします。
解体は、壁や床を壊す作業だと思われがちですが、
本質はまったく違います。
解体作業で最も大切なのは、
「いかに早く構造体(柱・梁・筋交い)を露出させるか」
です。
骨格が見えれば、
・壊す順番
・危険箇所
・重機を入れるタイミング
がすべて読めるようになります。
逆に、構造が見えない状態で勢いよく壊すと、
必要な部材まで破損したり、倒壊の危険が生まれます。
“構造を読む作業こそがプロの速度の理由”です。
解体は、最初の一撃をどこに入れるかよりも、
廃材をどこへ置くかが勝負です。
木材、石膏ボード、金属、断熱材、タイルなど、
素材ごとに処分場も搬出順も異なります。
そのため、
・どの部屋をストックヤードにするか
・そこへ何を置くか
・どれくらいの量が出るか
を“最初に”決めておく必要があります。
これを誤ると、
最後に仕分けに追われて作業効率が大幅に落ちます。
解体は段取りで8割が決まる仕事です。
解体を始める前に、建物のライフラインを必ず止める必要があります。
● 電気
電力会社に依頼し、ブレーカーを抜いてもらうまで電源を落とす。
● 水道
メーター手前の元栓を閉める。
● ガス(都市ガス・LPガス共通)
メーターコックを閉め、
管内に残ったガスを一度排出して安全確認。
この3つを確実に行うことが、
“解体で最も危険な事故”を防ぐ第一歩です。
部屋ごとに構造や作りが異なるため、
“順番”と“理由”を理解しておくことが安全につながります。
● 和室
・畳は最後に出す(作業中のクッションになる)
・壁を壊すには、鴨居・長押などの化粧材を先に外す
・押入れは道具置き場として後半まで残す
・道具は一か所にまとめて紛失防止
・和室は壊すよりも“化粧材を外す手間”が中心です。
● キッチン
・最初に 蛇口を外すのが鉄則。
残しておくと、すべてが邪魔になります。
・吊り棚は重量があるため、ビスを外す際は慎重に
・流し台は天板よりも“壁側の固定ビス”を先に外す
・引き出し内部に隠れたビスが多い
一度手前へ引き出してから分解すると安全
・キッチンの難所は“見えないビス”です。
● 風呂
・タイルは振動ドリルなどで割る
・床は根気が必要
・排水管には絶対にゴミを入れない(目張り必須)
・水回りは壊すというより“破損させないこと”が重要です。
● 階段
・壁の解体が終わってから
・ビスや釘は内側から止まっているため、裏側へ回る必要
・最後まで通路として残す
・階段は“家の動線”なので最終工程です。
● 天井裏
・断熱材と埃が落ちるため防塵対策が必須
・主要梁だけ残せばよい
・ここも“構造を露出させる”ことが目的
● 作業効率を大きく上げるコツ
2階に“落下穴(投入口)”を確保する
2階で出た廃材を、1階の指定場所へ落とせるようにするだけで、
作業効率は体感で3倍になります。
解体では、取り外した木材を投げ置く場面が増えます。
その木の裏側に釘が残っていると、
踏み抜き事故が多発します。
事故を防ぐポイントは3つ。
・頻繁な掃除
・作業通路の確保
・木材の向きを一定に揃える
仮囲いでは埃は防げません。
風で舞うため、掃き掃除は必須です。
これは誇張ではありません。
・2階の解体
・1階の解体
・屋根の瓦下ろし
・小屋組みの露出
これらを 5日程度 で終えてきました。
スピードの理由は
“構造を読む段取り”が整っているからです。
また、
重機がなくても3日あれば解体は終えられる
というのも事実です。
最も危険なのが、
金物が残った状態で重機を入れることです。
・土台のナット
・羽子板ボルト
・コーチボルト
各種金物
これらがついたまま重機で引くと、
家全体が“つながったまま”動いて事故になります。
重機の投入は
「全ての金物が外れ、構造が読み切れたあと」
これが鉄則です。
解体は力仕事ではありません。
必要なのは“段取り・安全・構造理解”です。
そして、
構造が見えた瞬間に、その部屋の解体は終わりです。
これを繰り返すだけで、
30坪程度の木造住宅なら十分に1人で進められます。
DIYの方は、無理な部分には手を出さず、
この記事でお伝えした“安全と段取り”だけ参考にしてください。
安全第一で、正しい手順を踏めば、
中古住宅の解体は決して難しい作業ではありません。