2025年建築基準法改正で、現場はどう変わるのか

2025年11月13日 17:49

― 「現場は人がつくる」その原点から読み解く“業務量2倍”の本質 ―




2025年4月、建築基準法が改正され、

木造2階建て住宅(旧四号建築物)であっても

構造関係規定・省エネ関係規定を含む図書提出が必須となりました。



国土交通省の公表資料でも、

「確認審査の範囲拡大」「合理的説明の必要性」が示されており、

制度として求められる品質は確実に引き上げられています。



しかし、この変化は図面の世界だけで完結しません。

現場監理・大工・設計・監督のすべてに影響し、

“現場全体の動き方そのもの”を変えています。



この記事では、複数の施工店・大工・監督への取材をもとに、

制度の変化が現場にどう影響し、

なぜ現場は動きにくくなっているのかを丁寧に整理します。



■ 現場を理解するための“イメージ”




建築現場とは、図面どおりに機械的に進む場所ではありません。


木材の個体差、天候の変化、敷地条件、材料の癖、

そして大工と監督の判断。



これらが重なり合ってはじめて現場は動きます。


どれだけDX化やソフトが進んでも、


判断するのは人、

伝えるのは人、

施工するのも人。



この“人が動かす現場”という原則こそ、

今回の法改正を理解する土台になります。



■ 法改正で増えたのは“図面”ではなく“理由の説明”





複数の設計者・工務店・申請担当への取材では、

ほとんどの人が共通して次のように語りました。



「図面枚数よりも、“根拠資料”が倍以上に増えた。」


具体的には——


  ・金物選定の根拠

  ・壁量・直下率の整合

  ・断熱区画と外皮性能の説明

  ・日射取得・遮蔽の根拠

  ・防火構造の確認

  ・既存建物の影響

  ・審査対応の追記資料



設計者の実務感覚では、


従来の1.8〜2.5倍の作業量


という回答が最も多く、

作図そのものより 「理由を示す作業」 が時間を奪っています。





■ 大工は「困っている」のではなく「慎重になっている」





大工に直接話を聞くと、

意外にも“苦労”という言葉はあまり使われませんでした。



代わりに聞かれたのは、次のような静かな本音です。


「間違えるとやり直しになる。だから確認に時間がかかる。」

「現場ごとに仕様が違って、共通した感覚がつかめない。」



大工さんは丁寧に仕事をしたいだけです。

しかし、確認作業が増えた結果として、

工程が遅れやすくなっています。



真面目な人ほど、慎重になる——

これは制度の複雑化による副作用です。




■ 監督は“説明のために”現場を離れざるを得ない





監督に話を聞くと、

次のような意見が圧倒的に多く挙がりました。



  ・図面・根拠資料の整理で事務所に戻る時間が増えた

  ・大工の質問に答えるための資料探しが増えた

  ・施工図と設計図の整合性が以前より複雑になった

  ・記録写真・検査項目が増え、現場滞在時間が減った



監督は本来、

現場にいる時間が長いほど現場が効率よく回る職種です。



ところが今は、

事務作業と審査対応に追われ、現場を離れる時間が増えています。




ある監督の言葉は非常に象徴的でした。


「現場にいたいのに、書類がそれを許してくれない。」




■ DX化では現場は早くならない





DX導入についても尋ねましたが、

ほとんどの現場で次のような意見が返ってきました。



「DXは便利。でも、実際に人に伝え、判断する部分は変わらない。」

「案件ごとに条件が違うから、ソフトだけでは回らない。」



つまり、

DXは“補助”にはなっても、

現場そのものを早くする決定打にはならない

という現場の認識が共通していました。




■ では、現場はどうすれば動きやすくなるのか?




※取材をもとに導かれた“構造的な結論”



複数の工務店・大工・監督に取材し、

立場の違いを超えて全員が同じことを語りました。



「監督が現場にずっといられる体制が、一番の効率化だ。」



これはイメージでも理想論でもなく、

現場全体の声として出てきた共通の結論です。



では監督の時間を奪っているのは何か?


   ・図面・根拠資料の作成

   ・申請準備・整合性チェック・審査対応



つまり、

監督が行っている“設計部門の仕事”がボトルネック

になっているのです。




だからこそ、取材した工務店の多くが同じ言葉を口にしました。




「設計部門は外に持つのが、今もっとも現実的だと思う。」


これは外注を推す意見ではなく、

現場を効率化するための “役割分担の合理的な再構築” です。





■ 最終結論




現場は人がつくる。

人が動きやすくするには、監督が現場に集中できる体制が必要。

そのためには、設計部門を外に持つ流れが自然に広がっている。



制度は良くなりました。

しかし現場がその変化に適応するためには、

“相談できる場所”と“役割の整理”が欠かせません。



2025年は、

「現場は人がつくる」

この原点に立ち返った運営体制づくりが求められる年です。




大工のおっちゃん工房

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