2025年4月、建築基準法が改正され、
木造2階建て住宅(旧四号建築物)であっても
構造関係規定・省エネ関係規定を含む図書提出が必須となりました。
国土交通省の公表資料でも、
「確認審査の範囲拡大」「合理的説明の必要性」が示されており、
制度として求められる品質は確実に引き上げられています。
しかし、この変化は図面の世界だけで完結しません。
現場監理・大工・設計・監督のすべてに影響し、
“現場全体の動き方そのもの”を変えています。
この記事では、複数の施工店・大工・監督への取材をもとに、
制度の変化が現場にどう影響し、
なぜ現場は動きにくくなっているのかを丁寧に整理します。
建築現場とは、図面どおりに機械的に進む場所ではありません。
木材の個体差、天候の変化、敷地条件、材料の癖、
そして大工と監督の判断。
これらが重なり合ってはじめて現場は動きます。
どれだけDX化やソフトが進んでも、
判断するのは人、
伝えるのは人、
施工するのも人。
この“人が動かす現場”という原則こそ、
今回の法改正を理解する土台になります。
複数の設計者・工務店・申請担当への取材では、
ほとんどの人が共通して次のように語りました。
「図面枚数よりも、“根拠資料”が倍以上に増えた。」
具体的には——
・金物選定の根拠
・壁量・直下率の整合
・断熱区画と外皮性能の説明
・日射取得・遮蔽の根拠
・防火構造の確認
・既存建物の影響
・審査対応の追記資料
設計者の実務感覚では、
従来の1.8〜2.5倍の作業量
という回答が最も多く、
作図そのものより 「理由を示す作業」 が時間を奪っています。
大工に直接話を聞くと、
意外にも“苦労”という言葉はあまり使われませんでした。
代わりに聞かれたのは、次のような静かな本音です。
「間違えるとやり直しになる。だから確認に時間がかかる。」
「現場ごとに仕様が違って、共通した感覚がつかめない。」
大工さんは丁寧に仕事をしたいだけです。
しかし、確認作業が増えた結果として、
工程が遅れやすくなっています。
真面目な人ほど、慎重になる——
これは制度の複雑化による副作用です。
監督に話を聞くと、
次のような意見が圧倒的に多く挙がりました。
・図面・根拠資料の整理で事務所に戻る時間が増えた
・大工の質問に答えるための資料探しが増えた
・施工図と設計図の整合性が以前より複雑になった
・記録写真・検査項目が増え、現場滞在時間が減った
監督は本来、
現場にいる時間が長いほど現場が効率よく回る職種です。
ところが今は、
事務作業と審査対応に追われ、現場を離れる時間が増えています。
ある監督の言葉は非常に象徴的でした。
「現場にいたいのに、書類がそれを許してくれない。」
DX導入についても尋ねましたが、
ほとんどの現場で次のような意見が返ってきました。
「DXは便利。でも、実際に人に伝え、判断する部分は変わらない。」
「案件ごとに条件が違うから、ソフトだけでは回らない。」
つまり、
DXは“補助”にはなっても、
現場そのものを早くする決定打にはならない
という現場の認識が共通していました。
※取材をもとに導かれた“構造的な結論”
複数の工務店・大工・監督に取材し、
立場の違いを超えて全員が同じことを語りました。
「監督が現場にずっといられる体制が、一番の効率化だ。」
これはイメージでも理想論でもなく、
現場全体の声として出てきた共通の結論です。
では監督の時間を奪っているのは何か?
・図面・根拠資料の作成
・申請準備・整合性チェック・審査対応
つまり、
監督が行っている“設計部門の仕事”がボトルネック
になっているのです。
だからこそ、取材した工務店の多くが同じ言葉を口にしました。
「設計部門は外に持つのが、今もっとも現実的だと思う。」
これは外注を推す意見ではなく、
現場を効率化するための “役割分担の合理的な再構築” です。
現場は人がつくる。
人が動きやすくするには、監督が現場に集中できる体制が必要。
そのためには、設計部門を外に持つ流れが自然に広がっている。
制度は良くなりました。
しかし現場がその変化に適応するためには、
“相談できる場所”と“役割の整理”が欠かせません。
2025年は、
「現場は人がつくる」
この原点に立ち返った運営体制づくりが求められる年です。
大工のおっちゃん工房