耐震補強の相談をいただくと、
「壁量を増やすべきか」「金物をどこに入れるか」
どうしても建物側の話が先に出がちです。
しかし、家屋調査士として現場を歩いてきた私が
どんな家でも最初に見るのは“地盤”です。
結論から言えば、
地盤が弱い家は、どれだけ補強してもまた沈みます。
これは何百棟も調査してきた中で逃げも隠れもしない現実です。
家が傾いたり、床が沈んだりすると、
多くの方は「建物の老朽化」を疑われます。
ですが現実はその逆で、
建物より地盤が先に限界を迎えていることの方が圧倒的に多い。
・典型的なサインは以下の通りです。
・片側だけ床が2〜3cm沈んでいる
・建具が勝手に閉まる・開く
・基礎に斜め方向のクラック
・外構の段差
・床のごくわずかな“流れ”
これらは、
「建物の問題ではなく土地が問題」という合図です。
震災復旧で東北の現場に入ったとき、
液状化の凄まじさを目にしました。
道路が波打ち、
マンホールが浮き、
家がそのまま沈んでいく。
その後、地層を調べて分かったのは、
沈下規模は“地下水の量”に比例する という事実です。
見た目では分からない土地の“素顔”。
これを知ってから、私はより一層「地盤を軽視してはいけない」と感じるようになりました。
中古住宅の調査をしていると、
家そのものより 土地の歴史 が家の状態に影響していることが多い。
私は家屋調査士として、以下をセットで見ます。
・過去の地盤調査記録の有無
・盛土・谷埋め・切土など造成履歴
・外構や庭の沈み方
・基礎クラックの方向
・床レベルの偏差
・雨水の排水のクセ
こうした“土地のカルテ”を読むことで、
この家を本当に補強してよいのか が分かります。
中古住宅の案内に同行したときのことです。
山の中腹を大規模造成したエリアで、
およそ80棟の住宅が整然と並ぶロケーションでした。
家に入った瞬間、なんとも言えない“違和感”がありました。
傾いているわけでもなく、敷地はきれいな長方形。
一見して問題はない。
でも外に出て、その理由がすぐに分かりました。
北側の基礎だけが新しい。
正確に言うと、北側の“一面の右半分だけ”
他と明らかに違う色をしていたのです。
その瞬間、
「これは沈下だ」と直感しました。
念のため床下を確認すると、
やはり北側のその部分だけ モルタルの土間が新しく打ち増しされていた。
造成地特有の“片側だけの沈下”。
おそらく地割れか地盤の偏りが起きたのだと判断し、
購入希望者の方には、
「この家はおすすめしません」 とはっきり申し上げました。
建物の形が整っていても、
基礎が「新しいはずのない場所だけ新しい」。
これは地盤のSOSです。
補強したあとで地盤が沈むと、
柱や梁の位置が歪み、
壁量計算も意味をなさなくなる。
・現場ではこういう例が実際にあります。
・補強した直後に床だけ沈む
・耐震壁を増やしても、地盤側が負けてバランス崩壊
“補強した点”に荷重が集中して局所沈下
これは工事の問題ではなく
地盤という大前提を見落とした結果 です。
耐震補強は大切。
でも“正しい順番”があります。
・地盤履歴と現況を確認する
・沈下・傾きの兆候を調べる
・土地に合った補強計画を立てる
この流れを守るだけで、
無駄な工事や将来のクレームをほぼ防げます。
地盤は目に見えない存在ですが、
家の安全性を左右する最も大きな要素です。
・不同沈下の多くは地盤が原因
・液状化は地下水量と深く関連
・中古住宅は“地盤のカルテ”が不可欠
・補強計画の前に地盤評価が必須
・順番を間違えると補強が無駄になる
家屋調査士・建築士・大工として、
私はずっと同じ結論にたどり着きます。
耐震補強の前に、まず地盤を疑うべきだ。
建物の前に土地。
これは現場を長く歩いてきた者としての、率直な実感です。
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