耐震補強より先に「地盤」を疑うべき理由 ― 家屋調査士として現場を歩いてきた私の実感 ―

2025年11月13日 12:04




耐震補強の相談をいただくと、

「壁量を増やすべきか」「金物をどこに入れるか」

どうしても建物側の話が先に出がちです。



しかし、家屋調査士として現場を歩いてきた私が

どんな家でも最初に見るのは“地盤”です。



結論から言えば、

地盤が弱い家は、どれだけ補強してもまた沈みます。

これは何百棟も調査してきた中で逃げも隠れもしない現実です。



■ 地盤が弱い家には、必ず“同じサイン”が出る





家が傾いたり、床が沈んだりすると、

多くの方は「建物の老朽化」を疑われます。



ですが現実はその逆で、

建物より地盤が先に限界を迎えていることの方が圧倒的に多い。



  ・典型的なサインは以下の通りです。

  ・片側だけ床が2〜3cm沈んでいる

  ・建具が勝手に閉まる・開く

  ・基礎に斜め方向のクラック

  ・外構の段差

  ・床のごくわずかな“流れ”



これらは、

「建物の問題ではなく土地が問題」という合図です。



■ 東日本大震災で痛感した、地下水と液状化の破壊力




震災復旧で東北の現場に入ったとき、

液状化の凄まじさを目にしました。



道路が波打ち、

マンホールが浮き、

家がそのまま沈んでいく。



その後、地層を調べて分かったのは、

沈下規模は“地下水の量”に比例する という事実です。



見た目では分からない土地の“素顔”。

これを知ってから、私はより一層「地盤を軽視してはいけない」と感じるようになりました。



■ 中古住宅こそ「地盤履歴」が命




中古住宅の調査をしていると、

家そのものより 土地の歴史 が家の状態に影響していることが多い。



私は家屋調査士として、以下をセットで見ます。



  ・過去の地盤調査記録の有無

  ・盛土・谷埋め・切土など造成履歴

  ・外構や庭の沈み方

  ・基礎クラックの方向

  ・床レベルの偏差

  ・雨水の排水のクセ



こうした“土地のカルテ”を読むことで、

この家を本当に補強してよいのか が分かります。




■ 山の中腹の造成地で起きていた“静かな沈下”




中古住宅の案内に同行したときのことです。


山の中腹を大規模造成したエリアで、

およそ80棟の住宅が整然と並ぶロケーションでした。




家に入った瞬間、なんとも言えない“違和感”がありました。

傾いているわけでもなく、敷地はきれいな長方形。

一見して問題はない。



でも外に出て、その理由がすぐに分かりました。




北側の基礎だけが新しい。

正確に言うと、北側の“一面の右半分だけ”

他と明らかに違う色をしていたのです。



その瞬間、

「これは沈下だ」と直感しました。




念のため床下を確認すると、

やはり北側のその部分だけ モルタルの土間が新しく打ち増しされていた。




造成地特有の“片側だけの沈下”。

おそらく地割れか地盤の偏りが起きたのだと判断し、

購入希望者の方には、

「この家はおすすめしません」 とはっきり申し上げました。



建物の形が整っていても、

基礎が「新しいはずのない場所だけ新しい」。

これは地盤のSOSです。



■ 地盤を無視した耐震補強は、逆効果にすらなる




補強したあとで地盤が沈むと、

柱や梁の位置が歪み、

壁量計算も意味をなさなくなる。



  ・現場ではこういう例が実際にあります。

  ・補強した直後に床だけ沈む

  ・耐震壁を増やしても、地盤側が負けてバランス崩壊



“補強した点”に荷重が集中して局所沈下



これは工事の問題ではなく

地盤という大前提を見落とした結果 です。




■ 正しい順番:補強より先に「地盤」を読む





耐震補強は大切。

でも“正しい順番”があります。



  ・地盤履歴と現況を確認する

  ・沈下・傾きの兆候を調べる

  ・土地に合った補強計画を立てる



この流れを守るだけで、

無駄な工事や将来のクレームをほぼ防げます。



■ まとめ|強い家は“強い地盤”の上にしか建たない




地盤は目に見えない存在ですが、

家の安全性を左右する最も大きな要素です。



   ・不同沈下の多くは地盤が原因

   ・液状化は地下水量と深く関連

   ・中古住宅は“地盤のカルテ”が不可欠

   ・補強計画の前に地盤評価が必須

   ・順番を間違えると補強が無駄になる



家屋調査士・建築士・大工として、

私はずっと同じ結論にたどり着きます。



耐震補強の前に、まず地盤を疑うべきだ。



建物の前に土地。

これは現場を長く歩いてきた者としての、率直な実感です。




地盤や傾きが気になる方へ

「うちの家は大丈夫かな?」と感じたら、一度プロにご相談ください。
家屋調査士としての視点から、地盤・傾き・劣化の状態を踏まえてアドバイスいたします。

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