空き家を安く手に入れて、自分の手でリノベーションし、地方に移住する。
そんな理想を描いて都市を離れた人たちの中に、実際にそれを“続けられた”人はどれだけいるだろうか。
今、移住支援制度やDIY推奨策の多くが抱えているのは、「移住者がやってくれるだろう」「この程度は自分でやるべきだろう」と、双方の思い込みがすれ違ったまま進んでいるという現実だ。
成功とされている事例がある一方で、失敗や途中離脱の声も少なくない。
以下は、実際に複数の自治体・支援団体・現場から報告されている傾向である。
・移住者側:
・DIY経験がないまま理想を膨らませ、途中で体力・資金が尽きる
・支援制度があると思い込んで来たが、実際は自己責任型
・地域側:
・「その程度はやってもらわないと」という暗黙の期待
・地元工務店に頼むと高額になり、移住者とトラブルになることも
・支援体制の限界:
・多くの自治体が空き家バンク止まり
・中間支援組織がなく、工務店と移住者の間に翻訳者が不在
結果、夢を抱いて移住してきた人が、改修半ばで地域を離れるという現実が全国各地にある。
一方で、明確な成功を収めている事例もある。
たとえば、岡山県西粟倉村のような中山間地や、郡上市のような自治体では、ある共通点が見られる。
✅ 成功の要因:
NPOや建築家が中間支援者として機能
改修作業はDIYとプロ施工を明確に分担
「リノベーションが目的」ではなく、“暮らし”と“つながり”が主目的
つまり、そこにあるのは“DIY支援”ではなく、“街づくりのプロジェクト化”だ。
もうひとつ、現在の支援制度ではほとんどカバーされていない層がある。
それが、都心に通勤可能なエリアに移住する人たちだ。
群馬・栃木・茨城といった北関東エリアでは、都市へのアクセスを保ちつつ、住宅コストを抑えた暮らしを求める動きが活発化している。
しかし、こうした“部分移住”や“通勤型移住”に対する支援制度は、まだほとんど存在しない。
・仕事は都心 → 地域に根ざした暮らしが前提とされない
・移住希望者 → フルリモートではないので、地域活動に強く巻き込まれるのは難しい
・DIY志向 → 全面的なセルフリノベではなく、**「一部だけやりたい」**というニーズ
このような“中間的なライフスタイル”を支える制度や事業者が、いまだに欠けている。
私は建築士であり、現場に立つ大工でもある。
だからこそ思うのは、「DIY移住」という言葉が、誤解を呼ぶ可能性を持っていることだ。
住まいとは、単なる物件ではなく、「暮らしの基盤」だ。
その基盤の構築に、素人だけで臨むこと自体が、実は非常にリスキーだと感じている。
そこで私は、以下のような仕組みが今こそ求められていると考える。
1. 🛠 施工の“難易度別”マッチング
・構造・水回り:地元の工務店や職人が担当
・内装・塗装・DIY家具:住民が手を動かせる範囲で関与
→ 必要なのは、“全体設計とパートナー選定”を担うプロの存在
2. 🧑🤝🧑 中間支援者=「暮らしの通訳者」
・価値観・労力・コストの“期待のすり合わせ”を翻訳
・自治体、職人、住民のすべてと対話できる存在が必要
3. 🏙 通勤圏を前提とした“地域接続のゆるやかさ”
・地域活動への参加を「段階的」に設計(最初は週末だけでもOK)
・移住を「定住か否か」ではなく、「関与の濃淡」で設計
「移住」は、人生の再設計であり、その器としての住宅は建築である。
建築とは本来、誰かの暮らしと、その土地の記憶をつなぐ行為であり、地域と人を“構造化”するものだ。
私は、DIYや支援制度に欠けていたのは、まさにこの構造化する力=建築的視点だったのではないかと考える。
これからの移住は、もっと自由で、もっと柔軟で、そしてもっと構造的であっていい。
1級建築士・大工/建築・地域・暮らしをつなぐことを軸に活動
現場から考える、これからの住まいのかたち