地域の過疎化、空き家の増加、移住者と先住者のすれ違い――。
こうした課題に対し、ただ建物をリフォームするだけではなく、“人と地域が関われる場を一緒につくる”という古民家再設計の考え方が、いま注目を集めています。
これまで3回にわたり、
・再設計という建築的視点
・快適さと交流が両立する空間構成
・特産品や食を通じた地域の経済循環
といった切り口で、古民家再設計の可能性を解説してきました。
最終回である本記事では、建築士の立場から見た「地域の未来を支える空間設計のあり方」と、「持続的に育てる仕組み」をテーマに、プロジェクトの全体像と今後の実践的展望をお伝えします。
古民家を再設計して生まれるのは、単なる施設ではありません。
そこで大切にされるのは、人と人が出会い、関わり、対話する“関係性”の土壌をつくることです。
・ワークスペースで仕事をする人
・カフェで休憩する地域の親子
・商品棚に並ぶ地元の農産品
・手づくりのおにぎりを提供するおばあちゃん
このように、異なる立場・世代・背景の人たちが、同じ空間を自然に共有できる環境があるだけで、地域の空気は大きく変わります。
再設計によって「快適に過ごせる」「使いやすい」と感じる場所になることで、人が集まり、動き、関係性が生まれる――これこそが“建築の力”です。
大きな補助金やハード面の整備だけでなく、重要なのは**“完成後にどう育てていくか”というソフト面の仕組み**です。
たとえば、
・利用者の声を定期的に反映する運営会議
・高校生や大学生による商品開発の参加
・定年後のスキルを活かした地域内起業サポート
・季節ごとのイベントをきっかけとした住民交流の場づくり
といった取り組みを通じて、建物が地域の“日常の一部”として呼吸を続けていくことが理想です。
こうした“育てる空間”の設計は、建築士が建てるだけではなく、行政・住民・事業者と共に運営を見据えて設計段階から仕組みづくりを行うことが鍵となります。
この古民家再設計プロジェクトは、あくまで一軒の建物から始まる取り組みですが、そこから派生する動きは広範に及びます。
・空き家の再活用モデルとして他地域への展開
・地元食材・工芸の販路拡大による産業振興
・地域と移住者の信頼関係強化による定住支援
・子どもたちや高齢者の社会参画の場としての機能拡大
建築が単なるインフラではなく、「まちづくりの核」として位置づけられることにより、地域が自分たちの手で未来を設計していく動きが生まれます。
そこには、“誰かのため”ではなく“みんなで支え合う場”を持つ地域の姿があります。
本プロジェクトの根底にあるのは、「建築をつくる」ことではなく、
“つながりが生まれる余白”を地域に残したいという思いです。
建築士は、形を設計するだけでなく、
・どう人が動き、
・どう言葉が交わされ、
・どう暮らしが支え合われるか
という“見えない関係性”を想像し、設計に落とし込む役割があります。
それは決して派手なものではありませんが、地域に根ざし、じわじわと効いてくる、**“建築が持つ本来の力”**です。
全4回にわたってお届けした古民家再設計プロジェクトでは、建築を軸とした地域づくりのあり方をお伝えしました。
・建物を修復するのではなく、“共につくる関係性”を設計する
・快適性・機能性と地域性・歴史を両立させる空間を提案する
・特産品や食文化と融合し、地元産業を支える販促拠点を築く
・町全体が関わる施工プロセスを通じて、誇りある場所に育てる
・完成後も“地域が育てる拠点”として、未来へ継続させる
古民家再設計は、過去を未来につなぐ“地域の物語”を育てる建築のかたちです。
これからのまちづくりにおいて、「誰かがつくったものを使う」時代から、「自分たちでつくったものを育てる」時代へ。
その先頭に立てるよう、建築士として、地域と共に歩む提案を続けていきます。